新型コロナウイルスの感染拡大の抑制のために3月から実施された外出禁止令により、アル・カイールアカデミーは休校となり、主に日雇い仕事で家計を支えている生徒の家族にとってはとても厳しい状況となりました。
アル・カイールアカデミーは生活困窮家庭に対しての食糧支援活動を継続してきました。
一方で8月にはモンスーンの大雨により、カラチのアル・カイールアカデミーの各キャンパスと周辺のスラム地域を含め大きな被害がありました。
そこで、2020年9月 16~18日に、スラムの人々の暮らしやアル・カイールアカデミーの事業活動について、電話とメールでムザヒル校長にインタビューを行ないました。
8月の大雨により甚大な被害を受けた、カチラクンディに暮らす人々と住居
上:水害前に撮影(2018年7月) 下:水害後に撮影(2020年8月)
新型コロナウイルスの感染拡大は緩やかに
【質問】外出禁止例によって失業など影響を受けた家族のための食糧支援活動の現状を教えてください。
【ムザヒル校長】外出禁止令が解かれ、経済活動が再開されたため、食糧支援は終了しました。一方、モンスーンによる大雨で、水害に見舞われた家族への支援を開始しています。
【質問】パキスタンでは新型コロナウイルスの感染拡大は緩やかになったという報道を目にしました。あなたの周りでの感染状況、暮らし、事業活動の変化はありますか。
【ムザヒル校長】報道は正しいと思います。人々の暮らしや事業活動は正常に戻ってきていて、新型コロナウイルスへの恐怖は大幅に軽減されてきています。
生徒の家を家庭訪問するアル・カイールアカデミーの先生
モンスーンによる大雨
【質問】8月のモンスーンによる大雨でカラチ市を含め数十人が感電などで亡くなっていると聞いています。心からお悔やみ申し上げます。
【ムザヒル校長】私たちの学校の教師や本校の生徒は、アブドゥルラヒーム地区、スルジャニ地区、ユスフ地区に暮らしており、これらの地域は不完全な排水システムと道路の破壊によって大きな被害を受けました。住居は浸水し、数日間その状態が続きました。
中でもユスフ地区は8フィート(約2.4m)の高さまで水没してしまいました。
調査の結果、ベッド、扇風機、食料品、食器、衣服など、すべてが破壊、または流失してしまっていることがわかりました。
私たちはこれらの家族のための食糧配給活動と社会復帰支援活動を開始し、できるだけ多くの家族を助けるために資金を集め始めました。
要望を訴える全ての被災者へ届けることはできませんが、これまでの学校の活動を住民は理解しており、「物資は結構です、子どもが早く学校へ通えるようにしてほしいです。」と言ってくる人もいます。今も3人の教師が調査を継続し、必要な地域に物資を届けています。
冠水した道路 カラチ市内
【質問】キャンパス2のあるカチラ・クンディ(カラチ市内のゴミを集めて野焼きをしている地域)の被害が甚大だと聞きました。この地域ではどのような支援活動を行なっているのですか?
【ムザヒル校長】彼らの住居は浸水し、薪を燃やせないために炊事ができません。また、ゴミを燃やして有価物を集めることができないため収入(1日約200~300ルピー)を得られない状況です。
私たちは2週間前から学校で、調理した食事を毎日約千人に2食提供しています。今後も3週間は続けるつもりです。この支援活動はカチラ・クンディで困窮している全ての住民(約500世帯)を対象としています。
食事の他に、浸水した住居の修理や、生活用水の貯水槽の建設も行なっています。この貯水槽は、要望のあった20家族(約90名)の暮らす集落の一角に作りました。これまで住民はこの地域の水販売所で2ガロン(約7・7リットル)単位で購入せざるを得ませんでしたが、これからはタンクローリー車から大きな単位で購入できるため、購入価格がとても低く抑えられます。新しい貯水槽を利用する住民たちは、周辺の集落の人が水を求めてきた場合には、無料で配布することを約束しました。
大雨により壊されたカチラクンディの家を修繕するための藁や木材。1件を修繕するのに約15000ルピーかかるそうだ
9月15日、学校再開
【質問】政府は学校を9月15日に再開する予定でした。実際に再開はされましたか?
【ムザヒル校長】はい。政府の方針で9年生と10年生は15日から再開しました。
上級生の生徒達は学ぶ意欲が高く、休校中は学校に来られず心配だったと話していました。
今後、6〜8年生は9月22日から、その他の学年は30日から再開予定です。
特にキャンパス2、3、5、6周辺の地域では子ども達が小さい頃から仕事をしています。
学校としては休校している間に学ぶことへの関心が下がってしまうことを心配しています。
学校再開に向けて、生徒の家庭訪問を行ない、再び学校へ通うよう呼びかけています。
【質問】生徒たちは暫く学校で勉強することができませんでした。再開に際して彼らの勉強を支援する活動を考えていますか?
【ムザヒル校長】学校再開は少し難しい挑戦になりますが、この数か月間は生徒と連絡を取り合うよう努めてきました。
学校再開とともに、専任の教師がこの課題に取り組む予定です。
高学年のクラスには補習授業を行なう必要があるかもしれませんが、まだ確定はしていません。
【質問】アル・カイール初の女子校であるキャンパス8の建物が完成したと聞きました。
女子生徒の学びの機会が作られることを大変嬉しく思います。
キャンパス8はいつ頃、どのようにスタートしますか?
【ムザヒル校長】まだ開校日はまだ確定していません。確定次第お知らせします。
以前お伝えした通り、教師を含めスタッフはすべて女性が担います。
パキスタンでは女子は高学年まで学び続ける必要がないと考える人もいますが、私たちは女子生徒が自分の人生というものを考え、より良くする力をつける場を作ることがとても大切だと考えています。
キャンパス8の近くのキャンパス3では、現在、女子生徒が30%と少ない状況です(キャンパス1では50%が女子生徒)。
キャンパス8周辺では14歳位で婚約や結婚する女子も多く、彼女たちが学ぶモチベーションを保ち続けられるように支えたいと考えています。
【質問】最後にJFSAの会員・支援メンバーへメッセージをお願いします。
【ムザヒル校長】この困難な時期に、JFSAの会員と支援メンバーはアル・カイールを支援し続け、また困難かつ異常な条件下にあっても活動を継続してきました。
新型コロナウイルスの感染拡大抑制に取り組みながら、衣類などの仕分け、梱包、コンテナへの積み込みなどの業務を管理することは容易ではないはずです。
私たちはあなた方の努力に対して心から感謝し、あなたたちが私たちのパートナーであることを嬉しく思います。あなたたちの継続的な支援により、この歴史的な困難な時期にさまざまな支援活動を実施することが可能になりました。
キャンパス1の幼稚園クラスの授業風景
ムハンマド・シャヒド先生 40歳、物理学と数学を担当
Q、外出禁止などで、あなたやあなたの家族はどのような影響を受けていますか?また最近では状況が変化しましたか?
A、外出禁止期間中に兄が失業し、家族は経済的困難な状況でしたが、4か月経ち彼は仕事に復帰しました。
Q、あなたは新型コロナウイルスについて、どのように情報を得ることができましたか?
A、情報は〝WhatsApp〟というSNSから得ていましたが、少し大げさだと感じました。
それでも予防策を講じる必要があると思っています。
Q、家族やあなた自身が発熱するなど、感染が疑われた場合はどのように行動しますか?
A、私は家族を自宅で隔離状態にするつもりです。
Q、休校の間、あなたはどのように過ごしてきましたか?
A、アル・カイールアカデミーの食糧支援活動に参加し、忙しかったです。
Q、生徒たちとは会いましたか?
A、はい、食糧の配給中に会いました。
Q、休校の間、何か印象的な出来事はありましたか?
A、多くの人々が食糧支援活動の恩恵を受けたこと、そして私はその一員であったことを嬉しく思います。
Q、あなたは学校の仕事を再開するにあたり、心配なことはありますか?
A、いいえ。楽しみにしています。
ラレイブ・リカット・アリさん15歳、8年生
Q、外出禁止などで、あなたや家族はどのような影響を受けていますか?また最近では状況が変化しましたか?
A、私たちは財政的そして教育の問題に直面しました。
私の父はチャイ(ミルクティー)を売っていますが、外出禁止期間中、お茶を出す店が閉じていたため、何もすることができませんでした。今は問題が無くなり、働き始めました。
Q、あなたは、この新型コロナウイルスについて、どのように情報を得ることができましたか?
A、ニュース番組やSNSアプリを通じて得ていました。
ウイルスが咳やインフルエンザに関連していると聞いたことがあります。
Q、家族やあなた自身が発熱するなど、感染が疑われる場合はどのように行動しますか?
A、私の家族に症状が現われた場合、私は彼(彼女)を一人で部屋に分けますが、彼(彼女)を完全に一人にしておくことはしません。
Q、休校の間、あなたはどのように過ごしてきましたか?
A、縫製のスキルを本校に併設された縫製工房で学びました。
そこで、新しい縫製のスキルを学ぶことができて楽しかったです。
Q、勉強をすることはできましたか?
A、家で勉強しようと思っていましたが、先生の指導がなく大変でした。
Q、これから学校が再開される予定です。どう感じていますか?
A、それを聞いてとても幸せです。
Q、あなたは家族や暮らしについて、今何か心配なことはありますか?
A、いいえ!コロナウイルスによる問題は何もありません。治療よりも予防が大切だと思っています。